災害の種類と必須医薬品

エッセンシャルドラッグ・モデルリストとは

「エッセンシャルドラッグ・モデルリスト」は、世界の国々が自国の医療に不可欠な医薬品を選ぶ際にたたき台となるものとして、WHOが示したものです。言い換えれば、このリストにあげられた薬剤は、いずれも「病気の予防や診断・治療に不可欠で、なければ人の健康維持や医療に重大な支障をきたすような、質の高い優れた薬剤」といえます。
なぜ私がこのリストを紹介しようと思ったか、その理由と、日本においてこのリストの持つ意味を述べたいと思います。

エッセンシャル(=必須)な医薬品を厳選しようという考えは、もともとは開発途上国の医療レベルに一定の水準を確保するために1976年にWHOが打ち出したコンセプトでした。乏しい医療資源と資金(国民医療費)で国民の健康を守るには、最小の出費で最大の効果を上げる必要があり、そのためには、優先的に使用すべき「基本医薬品」をよく吟味して決めておく必要があります。そのモデルとしてWHOが示したものが、このエッセンシャルドラッグ・モデルリストでした。

当初はリストの医薬品は208種類でしたが、その後、72種類が削除され、新たに176種類が追加されて、現在は312種類となっています(11版モデルリスト)。

世界のエッセンシャルドラックより

必須医薬品の理論値の算定

治療に欠かせられない必須医薬品は、適正な量、適確に配分するよう管理が行われることが望ましいわけですが、そのためにははっきりとした行動計画を持ち効果的な医薬品供給システムを持たなければなりません。途上国では、多くの必須医薬品リストを作ったものの、利用されないということになりかねないのでは、このような行動計画の策定が実際には困難であることを教えています。
とりわけ、決定された必須医薬品の所要量の算定は、予算の配分等を通じた効果的な行動計画策定のためには不可欠なものです。
必須医薬品の算定については、WHOから「Estimating Drug Requirements-A Practical Manual-,1988」が出版され参考に供されています。ここでは

  1. 疾病構造-標準治療指針法
  2. 標準消費法

の2つの方法が採用されています。

疾病構造-標準治療指針法(The Patient Morbidity-Standard Treatment Method)

  1. 各保健医療施設で薬物療法の対象となる個々の疾病等の発生値
  2. 個々の疾病に対する標準薬物療法
標準薬物療法による
個々の疾病の医薬品所要量
× 個々の疾病の
治療件数
個々の疾病ごとの
医薬品所用量

を求め、各医薬品ごとの所要総量を計算していきます。最後にこれをすべての患者1,000人当たりに換算して、各施設の患者数に対応した割り当てを計算することになります。

標準消費法(The Adjusted Consumption Method)

各々の保健医療施設形態別の代表例を取り出して、そこでの医療品消費高を調べ、これに調整を加えつつ、標準施設における1,000人の患者に対応した医薬品所要量を求めます。これを基に、各級施設における実患者数に対応した医薬品所要量を推定します。
この方法は、アフリカのガーナで大々的に試みられました。

(Hogerzeil,HV.:The use of essential drugs in Ghana.Int.J.Health Serv.16;425-40,1986およびHogerzeil,HV.:Estimating drug requirements.Trop.Doct.,16;155-9,1986)

医薬品所要量算定のための標準治療法(WHO)

外耳炎 疥癬 咳嗽 廻虫症 火傷
かぜ 家族計画 鎌状赤血球血症 かゆみ 関節炎
眼内異物 感冒 気管支炎(急性) 気管支炎(慢性) 気腫
急性気管支炎 急性下痢症 胸部膿瘍 虚血性心疾患 けいれん重積状態
痙攣(熱性) 結膜炎 倦怠 高血圧症 咬傷
咬傷(蛇その他) 鉤虫症 口内痛 5才以下児童
予防ケア
骨折
骨盤炎症 コレラ 昆虫咬傷刺傷

医薬品所要量算定のための標準治療法(WHO)

ICD 疾病 医薬品 投与量 1日投与回数 治療期間総量
001 コレラ 成人 Tetracycline 250mg
ORS 1l
2cap
4袋
×4 24caps
小児 Sulfameth/Trim 400/80mg
ORS 1l
1tab
3袋
×2 6tab
002 チフス 成人 Chloramphenicol 250mg 3caps ×4 144caps
小児 Chloramphenicol 250mg
注:定期的レビュー必要
1.5caps ×4 72caps
004 細菌性赤痢 成人 Sulfameth/Trim 400/80mg 2tab ×2 20tab
小児 Sulfameth/Trim 400/80mg 1tab ×2 10tab

医薬品所要量算定の比較

2つの方法で整合性をはかりながら、過去派遣された災害の種類と疾病構造に伴うオーダー内容の理論値と、実績値を随時検証し次回派遣のタスクのため基本定数と別途オプション内容の検討が必要である。

  疾病構造−標準治療指針法
Patient Morbidity-Standard Treatment Method
標準消費法
Adjusted Consumption Method
適用事例
  1. 消費量の不明確
  2. 処方が合理的ではなく改善が必要
  3. 予算が十分ではない
  4. 保険医療施設を新規に設置または著しい変化が起きている
  1. 消費量が把握できる
  2. 代表的施設が抽出でき、合理的処方が実施されている
  3. 代表的施設への医薬品供給は十分
  4. 十分な在庫管理が行われている
注)1、2からわかるように、新規施設や著しい変化が起きている場合は適用不可
メリット
  1. 医薬品消費データ不要
  2. 処方、使用の良い指針になる
  3. 疾病データ収集促進
  1. 疾病データ、標準治療指針不要
  2. 計算が容易
  3. 複雑多岐の業務施設(病院等)に有用
  4. データ基礎がしっかりすればより信頼性
  5. 在庫管理問題をも解決
デメリット
  1. 疾病データ、標準治療指針設定困難
  2. 計算複雑
  3. 実際の供給値との乖離
  4. 標準指針が無いとき使用量との乖離
  5. 廃棄品等の計算は別
  1. 消費データの信頼性に難
  2. 合理的処方の改善に資さず
  3. 3ヶ月以上の不在庫、廃棄率が高い等の場合には信頼性に難
  4. 疾病データ収集の向上をはかれない

災害時前と後のPL顆粒消費量の変化について

災害時と一年後のPL顆粒消費量の変化について報告します。

3.11の東日本大震災時に、ある薬品問屋さんがPL顆粒の集める事と輸送が大変だったことが記憶に残っていましたとの言葉が印象的だったのでシオノギ製薬 東北支店に依頼し、岩手、宮城、福島の3県についての消費量を追求して頂きました。
災害時と一年後のPL顆粒消費量の変化やはり、被災時の急性期に消費量が増大したことが伺われます。
大災害時、災害の種類、規模によるエッセンシャル医薬品と量を検証しておく必要があるのではないかと思う。