自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之
ブルセラ症は、ブルセラ属の細菌Genus Brucella(B.melitensis、B.aborntus、B.suisi、B.canisの4種)によって引き起こされる。この菌は世界的に存在し、特に地中海沿岸諸国、中近東、南アジア、ラテンアメリカ、アフリカに多い。メリテンシス菌(マルタ熱菌)感染の場合には、マルタ熱または地中海熱という。わが国での発生はほとんど無く、1996年B.abortusによる発症例が報告された。この細菌は羊、豚、山羊、犬などの哺乳類に感染し、人には感染動物との接触や未殺菌ミルクや乳製品の摂取などにより感染する。ヒトからヒトへの感染はまれである。ヒトへの感染経路は、皮膚、粘膜、肺、消化管からで、生物テロでの攻撃手段はエアロゾルが最も考えられる。
潜伏期は3日から3週間で、ブルセラは高率に感染を起こすが症状は非特異的で人それぞれで異なる。不顕性感染も多い。全身性の慢性感染症であるが、ヒトでは急性期症状も著明である。悪寒、発熱、頭痛、発汗、関節・筋肉痛、衰弱感を呈する。咳と頭痛は一般的であるが、重症感はない。典型的な場合、発熱の経過が特徴的で弛張熱を呈し、午後は高熱であるが、朝方は平熱になる。無治療では症状は数週間から数ヶ月持続し、骨や関節の衰弱性の疾患が合併する。まれに心内膜炎が合併し治療に難渋するため、心内膜症は最も恐れられブルセラ症による死亡の80%を占める。確定診断は、抗体価の上昇や血液などからの菌分離により、PCR法も有用な診断手段である。
ブルセラ属菌は細胞内寄生菌であるので、治療は困難である。テトラサイクリン、ストレプトマイシン、リファンピシンの2〜3剤を併用し、十分な量と期間(6週間以上)の投薬が必要である。成人には、ドキシサイクリン200mg/日とリファンピシン600〜900mg/日を6週間経口投与が推奨される。さらにショックと循環不全を予防し、重症例には補液が必要である。心内膜炎の予防には、ストレプトマイシンかゲンタマイシンを含む3剤の抗生物質の治療が必要である。ドキシサイクリンとリファンピシンが予防として経口投与されるが、この効果は証明されていない。ワクチンはない。次亜塩素酸塩は、ブルセラ属菌への殺菌効果がある。