腸管出血性大腸菌感染症(EHEC :Enterohemorrhagic Escherichia coli)

自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之

腸管出血性大腸菌感染症(EHEC :Enterohemorrhagic Escherichia coli)

概要

腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)O-157が、ヒトの下痢症の原因菌と認められたのは、1982年米国で発生したハンバーガーを原因とする2集団事例である。1985年には溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)との関連性が認められ、米国では赤痢菌よりも高率に分離され、血性下痢症の第1原因となっている。現在では、北米、欧州、オーストラリア、アルゼンチン、チりなどで多く分離されている。本邦でも、1995年の大阪府堺市の集団発生は、患者5,591名の大規模事案であった。
6〜10月の高温期に多発し、患者の2〜15%がHUSを併発するが、3歳以下のHUS発症率が特に高い。牛生肉からの感染が多いが、その他飲料水、生牛乳、野菜、水泳による感染、保菌者からの感染など種々の感染経路が報告されている。乳幼児、老人は特に感受性が高く、少量の菌で感染する。本邦でのEHECに属する大腸菌は、O157が80%を占め最も多く、O26、O111、O128が約10%であり、その他の血清型は稀である。

臨床症状

潜伏期は2〜5日が最も多いが、1週間程度でも起こる。排菌は1週間を過ぎると明らかに減少する。下痢から血便は1〜5日目、HUS発症は2〜8日目、血便からHUS発症は1〜4日目が多い。水様下痢から粘血便、鮮血に近い便まで見られ、嘔気、嘔吐、腹痛をともなう。
HUSは、一般的には血便出現後に発症するが、血便がなくても起こりうる。初発症状は乏尿や傾眠傾向であり、血小板減少、破砕状赤血球を伴う溶血性貧血、腎機能障害(血清クレアチニン上昇)とともに随伴する無尿と脳症が最も重要である。 便検査で、EHECの検出あるいは抗原の証明とベロ毒素の証明が必要。菌の証明が困難な時には、血清抗体価が参考になる。

治療

腸炎には、補液、食事療法の対症療法(出来るだけ止痢剤は使用しない)が中心となる。抗菌療法は、ニューキノロン薬・ホスホマイシン・カナマイシンなどが選択される。病初期の抗菌療法はHUSのリスクを低下させる成績が多い(※23)が、使用の是非・使用薬剤の選択には議論がある。初発症状出現後、できるだけ速やかに発症初期にニューキノロン薬・ホスホマイシン・カナマイシンの3〜5日間の投与が推奨されている。
HUS合併時の腎不全には、乏尿時の輸液や肺水腫に注意し、透析を実施する。脳症・痙攣重積時はジアゼパムで管理し呼吸管理下にチオペンタール投与、脳浮腫時はグリセオールR、マンニトールRの使用を行なう。 患者、無症状病原体保有者を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届ける。患者又は無症状病原体保有者では、特定職務への就業制限を行う。予防対策および拡大防止策は、調理関係者の手指、調理器具の清潔、食品の十分な加熱(75℃、1分以上)や、患者、保菌者、その保護者が手洗いの励行、消毒、食品の扱いに注意する。いずれにしても感染経路の究明が最も大切である。