付記2-5

自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之

付記-2 生物剤関連疾患の感染力と特性

疾患 ヒト-ヒト
感染力
感染成立量
(エアロゾル)
潜伏期 有病期間 致死率 病原体の安定性
天然痘 高い 推定:少数
(10〜100 Organisms)
7〜17日
(平均12日)
4週間
(ワクチン未接種時には35%)
安定性は高い
吸入(肺)炭疽 なし 8000〜50000 Spores 1〜6日 3〜5日(未治療で致死的)
(40〜80%)
安定性は高く、土壌中では40年以上も生存
肺ペスト 高い 10〜500 Organisms 2〜3日 1〜6日(通常致死的) 発症12時間以後では高
(肺では100%)
土壌中で1年以内・生体内で270日生存
野兎病 なし 10〜50 Organisms 2〜10日
(平均3〜5日)
2〜4週間 未治療で中等度(30%) 湿土や他の媒体中で数ヶ月間生存
野兎病 なし 10〜50 Organisms 2〜10日
(平均3〜5日)
2〜4週間 未治療で中等度(30%) 湿土や他の媒体中で数ヶ月間生存
ボツリヌス なし A型のLD50
0.01µg/kg
1〜5日 24〜72時間で死亡(数ヶ月) 呼吸管理なしでは高(A型:60〜70%) 水中・食品中で、数週間生存
ウイルス性出血熱 中等度 1〜10 Organisms 4〜21日 7〜16日で死亡 エボラザイール株高
エボラスーダン株中
一般的には不安定だが、剤種による

(米陸軍 生物剤関連疾患の医療対処 Ver1.4, 2001, 一部改編)

付記-3 各種生物剤診断のための検査と臨床検体

剤種 顔面・鼻腔スワブ※ 血液培養 スメア 急性期&回復期の血清 便 尿 その他 検査の
Gold Standard
天然痘
(PCR,分離用)
皮膚病変
(電顕・病理)
ウイルス分離・FA・NT
炭疽 胸水・髄液リンパ節 切創・病変部の吸引物 FA・標準微生物学
肺ペスト 喀痰 リンパ節吸引・髄液・喀 FA・標準微生物学
野兎病
(☆)
(抗原検出) FA・標準微生物学
ボツリヌス
(PCR,分離用)
皮膚病変
(電顕・病理)
ウイルス分離・FA・NT
ウイルス性出血熱
(★)
ウイルス分離・NT・(ELISA)

※18〜24時間以内
△血中よりリケッチア分離可能
☆リンパ節の蛍光抗体検査が有用・グラム染色はあまり有用でない
★適切な血液・咽頭スワブからウイルス分離

(USAMRIID’s Medical Management of Biological Casualties Handbook 第4版,2001 より一部改編)

付記-4 症状/症候と生物剤関連疾患(1)

症状 その他の症状・症候 可能性のある原因微生物(剤)
発熱   多数(毒素の可能性は小さい)
咽頭炎 咽頭痛、嚥下障害、発熱を伴うことあり 毒素(ボツリヌス、リシン、T2)
エボラ/マールブルク出血熱、ラッサ熱、野兎病
感冒様症状 発熱、悪寒、倦怠感、頭痛、筋(肉)痛、眼痛、知覚過敏 ブルセラ症、チックングンニャ熱、デング熱、インフルエンザ、早期の吸入炭疽、Q熱、リフトバレー熱、ベネズエラ馬脳炎
脳炎・中枢神経障害(脳症) 発熱を伴うことあり アルゼンチン出血熱、ボリビア出血熱、東部馬脳炎、西部馬脳炎、ベネズエラ馬脳炎、ラッサ熱、リフトバレー熱、ペスト、オウム病、ロシア春夏脳炎

(米陸軍 生物剤関連疾患の医療対処 Ver1.4, 2001, 一部改編)

付記-4 症状/症候と生物剤関連疾患(2)

症状 その他の症状・症候 可能性のある原因微生物(剤)
弛緩性麻痺 知覚異常、弛緩性脱力、中枢神経異常 毒素(ボツリヌス、サキシトシン、テトロドトキシン)
乏尿性腎不全 発熱を伴う ハンタウイルス性出血熱、黄熱病、オウム病(まれ)
肺症候群 肺炎、呼吸不全、呼吸困難通常発熱を伴う
※肺門リンパ節腫脹
吸入炭疽※、野兎病*、ペスト、ボツリヌス毒素、リシン、コクシジオド真菌症、クリミア−コンゴ出血熱、ウェルシュ菌毒素、ヒストプラスマ症、インフルエンザ、ハンタウイルス肺症候群(ARDS)、オウム病、Q熱、ブドウ球菌性エンテロトキシンB
急死症候群 数分以内に死亡(発熱は併発かも) 毒素(ボツリヌス、サキシトシン、テトロドトキシン、T2、その他)(化学剤)

(米陸軍 生物剤疾患の医療対処 Ver1.4, 2001, 一部改編)

付記-4 症状/症候と生物剤関連疾患(3)

症状 その他の症状・症候 可能性のある原因微生物(剤)
下血 発熱(典型的) 赤痢菌、キャンピロバクター、病原性大腸菌(O157:H7)、サルモネラ、ウイルス性出血熱
水様性下痢 ときに発熱 コレラ、ウイルス性出血熱、ブドウ球菌性エンテロトキシンB
出血熱 発熱、発熱を伴う低血圧 ウイルス性出血熱(アルゼンチン、ボリビア、クリミア−コンゴ、エボラ/マールブルク、デング熱、ラッサ熱)、黄熱病、ハンタウイルス性出血熱、リフトバレー熱(まれ)、ペスト、天然痘、トリコテセンマイコトキシン
黄疸 発熱を伴うことあり エボラ/マールブルク出血熱、黄熱病、ラッサ熱、トキシン(特にアフラトキシン)

(米陸軍 生物剤関連疾患の医療対処 Ver1.4, 2001, 一部改編)

付記-4 症状/症候と生物剤関連疾患(4)

症状 その他の症状・症候 可能性のある原因微生物(剤)
発疹 斑・丘疹状 全ての発疹症候群は典型的に発熱を伴う ウイルス性出血熱(アルゼンチン、ボリビア、クリミア−コンゴ、エボラ/マールブルク、デング熱)、流行性腸チフス、オウム病(まれ)、ロッキー山紅斑熱、ツツガムシ病、鼻疽、類鼻疽、天然痘(早期)、野兎病(まれ)
点状
斑状出血性
ウイルス性出血熱(アルゼンチン、ボリビア、クリミア−コンゴ、エボラ/マールブルク、デング熱、ラッサ熱)、黄熱病、ハンタウイルス性出血熱、オムスク出血熱、 リフトバレー熱(まれ)、流行性腸チフス、ペスト、ツツガムシ病、天然痘(まれ)、T2
小庖
膿庖性
野兎病、類鼻疽、天然痘
肉芽腫性
潰瘍性
野兎病、類鼻疽
頚部硬直 発熱を伴うのが典型的 東部/西部/ベネズエラ馬脳炎、ヒストプラスマ症、オウム病

(米陸軍 生物剤関連疾患の医療対処 Ver1.4, 2001, 一部改編)

付記-5 主な生物剤に対する化学療法と予防内服

疾患 化学療法 被曝後予防内服 代替薬・備考
天然痘 支持療法のみ
シドフォヴィール(in vitroで有効)は動物実験中
ワクシニア
免疫グロブリン:0.6mL/kg(IM)(曝露後3日以内、1日以内が最善)
曝露前後での種痘ワクチン
炭疽
  1. CPFX
    400mg(IV)12hr毎、又は500mg(PO)12hr毎
  2. DOXY
    100mg(IV)12hr毎、又は100mg(PO)12hr毎
  3. LVFX
    200mg(PO)8hr毎
  4. PCG
    400万U(IV)4hr毎
  1. CPFX
    500mg(PO)12hr毎、6〜8週間
  2. DOXY
    100mg(PO)12hr毎、6〜8週間
治療にはRFP、CLDMなどを追加
GM、EM、CPが代替となりうる
ペスト
  1. SM
    30mg/kg/日(IM)を2回に分けて10〜14日間
  2. GM
    5mg/kg/日(IV)単回10〜14日間
  3. CPFX
    400mg(IV)12hr毎臨床的に改善するまで
    その後750mg(PO)12hr毎 10〜14日間
  4. DOXY
    200mg(IV)その後100mg(IV)12hr毎 臨床的に改善するまで
    その後100mg(PO)12hr毎 10〜14日間
  5. LVFX
    200mg(PO)8hr毎
  1. DOXY
    100mg(PO)12hr毎7日間
    (又は曝露期間中)
  2. CPFX
    500mg(PO)12hr毎 7日間
  3. TC
    500mg(PO)6hr毎 7日間
  1. CPはペスト髄膜炎に適応、25mg/kg(IV)
    その後15mg/kg 6hr毎 14日間
  2. ST合剤がTC、DOXYの代替
野兎病
  1. SM
    7.5〜10mg/kg/日(IM)を2回に分けて10〜14日間
  2. GM
    3〜5mg/kg/日(IV)単回 10〜14日間
  3. CPFX
    400mg(IV)12hr毎臨床的に改善するまで
    その後500mg(PO)12hr毎 10〜14日間
  4. CPFX
    750mg(PO)12hr毎 10〜14日間
  5. LVFX
    200mg(PO)8hr毎
  1. DOXY
    100mg(PO)12hr毎14日間
  2. TC
    500mg(PO)6hr毎14日間
  3. CPFX
    500mg(PO)12hr毎14日間
ワクチンは国内になし
ボツリヌス中毒 抗毒素(3〜5価)1Vial(10mL)(IV) 馬抗毒素投与前には要皮膚テスト
ウイルス性出血熱
  1. リバビリン(CCHF/ラッサ)
    初回30mg/kg(IV)
    その後16mg/kg(IV)6hr毎 4日間
    その後8mg/kg(IV)8hr毎 6日間
低血圧・ショックに対する集中治療が重要
受動免疫抗体(AHF/BHF/ラッサ熱/CCHF)

(米陸軍 生物剤関連疾患の医療対処 Ver1.4, 2001, 一部改編)

付記-5 主な生物剤に対する化学療法と予防内服

CCHF
クリミア・コンゴ出血熱
AHF
アルゼンチン出血熱
BHF
ボリビア出血熱
CPFX
シプロフロキサシン
DOXY
ドキシサイクリン
LVFX
レボフロキサシン
PCG
ペニシリンG
EM
エリスロマイシン
RFP
リファンピシン
CP
クロラムフェニコール
SM
ストレプトマイシン
GM
ゲンタマイシン
NFLX
ノルフロキサシン
OFLX
オフロキサシン
TC
テトラサイクリン
除染・消毒剤:GA
グルタールアルデヒド
塩素系
次亜塩素酸ナトリウム(サラシ粉)・二酸化塩素・電解酸性水

など