自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之
Q熱はリケッチアCoxiella burnettiによる人獣共通感染症の1つで、世界中に存在しオーストラリア、イギリス、ドイツ、アメリカ含衆国などで年間数十から数百例が報告されている。本邦では最近まで症例の報告はなく、国内には存在していないと考えられていた。しかし約10年前に国内で患者から病原体が分離されたのを機に、家畜や野生動物が高率に抗体を保有し、ヒトでは獣医師や呼吸器感染症患者に抗体保有率が有意に高いことから、わが国にも本症が広く分布している可能性が強まっている。日本でも不明熱患者の一部にこのリケッチアがPCRで証明され、治療により症状の改善をみている。羊や牛、山羊に感染し、人は感染動物の尿や便、ミルクがエアロゾル化することにより感染する。このリケッチアは非常に感染性が高く1個を吸入しただけでも発症する。幸運なことにQ熱で死亡することはほとんど無く、無能力化剤に分類される。
急性型(急性Q熱)と慢性型(慢性Q熱)に大別されが、両者の発症機序については移行するのか病原体の性状が異なるのか、現在のところ不明である。急性Q熱の潜伏期は10〜20日であり、殆どの患者では2週間以内に軽快する。一般的な症状は発熱、筋肉痛、頭痛、悪寒で、約1/4の患者に咳や胸膜性の胸痛がみられる。元々治癒する疾患であり、死亡例はほとんどないとされている。慢性Q熱は心内膜炎の病像をとり、心内膜炎全体の1〜2%を占めるとされている(※18)。
経口のテトラサイクリン500mgもしくはドキシサイクリン100mgが、第1選択薬である。小児は、エリスロマイシンなどのマクロライド系の抗生物質で治療する。ワクチンは開発中であるが、まだ使用できない。患者の血液や尿などへの接触防止により、医療従事者の二次感染を防止できる。次亜塩素酸塩は、殺菌効果がある。