自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之
ブドウ球菌腸毒素B(SEB:Staphylococcal enterotoxin B)は、黄色ブドウ球菌により産生される。通常は、食物中に産出された毒素による毒素型食中毒を起こす。類似の食中毒には、セレウス菌による嘔吐型食中毒がある。毒素は抗原性の違いによりA〜E、およびH型があるが、原因の約80%はA型である。毒素は熱に対して抵抗性が強く、100℃/30分で程度の加熱では毒性は消失せず、ごく少量の毒素で症状を発生させる。SEBは吸入もしくは経口から体内に入り、その経路により異なる症状を示す。一般的には一過性で経過は1〜3日で回復し致死性ではないが、曝露した人の50%を無能力化する。
SEB吸入後3〜12時間で、発熱、悪寒、体の痛み、空咳を呈する。息切れと胸痛も伴い、発熱は5日間続き咳は1ヶ月持続することもある。SEB経口摂取時には、30分か6時間(通常2〜3時間)で嘔気と嘔吐、時に下痢がみられる。体内吸収毒素が、大量でない限り回復する。エアロゾル化されたSEBは、手や食品に付着し無意識に体内に入ることもあり、吸入と経口摂取時の症状は重なることもある。確定診断には、SEBの直接検出である。
拮抗剤や効果的な治療は無く、支持療法が主体である。呼吸困難のある患者では酸素投与、低血圧や脱水症患者は生理食塩水の静脈内投与が行われる。予防法はないが、次亜塩素酸塩は毒素を無効にする効果がある。