自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之
トリコセシンマイコトキシン(T2)は、カビのfusarium、trichoderma、myrotecium、stachybotrysなどが産生する毒素である。これらはラオス、カンボジア、アフガニスタンで「黄色い雨」と呼ばれたものである。T2は蛋白と核酸の同化を阻害し、細胞成長を直接障害する。皮膚、粘膜、消化管、骨髄など、分裂の速い細胞がより傷害される。毒素は高熱や長期間の日光にさらされても安定している。
T2は吸入、接触、経口にて曝露され、数分〜数時間で症状が認められる。マスタード類(特にルイサイト)に、類似した症状が認められ、鑑別に留意する。曝露された皮膚では、灼熱感、発赤、疼痛、びらん出血を起こす。上気道症状では、鼻や咽頭の痛み、鼻汁、鼻出血が見られる。下気道症状では、呼吸困難、喘鳴、血痰が見られる。目への曝露では、発赤、疼痛、流涙、目のかすみが見られる。経口曝露では、嘔気、嘔吐や腹痛とともに血便が見られる。高濃度曝露では、めまい、協調障害、低血圧を引き起こし死に至る。
治療は補助療法のみで、抗毒素などの特別な治療はない。次亜塩素酸塩溶液や生理食塩水(目の洗浄)による、迅速な除染が唯一症状を軽減させる。呼吸困難には、酸素や吸入型β刺激剤投与を行い、必要なら気管内挿管と人工呼吸が必要である。