野兎病(ツラレミア)

自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之

野兎病(ツラレミア)

病原体

Francisella tularensis(グラム陰性桿菌)がダニや蚊、野ウサギなどから感染。

潜伏期間

3日(2〜10日)。動物の死骸のなかで数週間、時に数ヵ月も生存可能。

感染経路

ヒトからヒトへの感染はない。

症状

数週間の寒気や吐き気、頭痛、発熱がみられる。無治療時、症状は2〜4週間、数ヵ月続くこともある。リンパ節型:有痛性頚部リンパ節腫脹、眼リンパ節型:結膜炎(淡黄色丘疹)、眼瞼炎、眼球穿孔、鼻リンパ節型:鼻粘膜にジフテリア様の偽膜形成が典型的な3型。

診断

胸部X線での両側の浸潤陰影像が特徴的で、培養より血清診断が有用。

致死率

無治療での致死率は約30%。

治療

ストレプトマイシン(1g筋注、12時間毎、解熱後も10〜14日投与)・ゲンタマイシン(3〜5mg/kg/day、解熱後も10〜14日投与)が有効。

概要

Francisella tularensis (グラム陰性桿菌)がダニや蚊、野ウサギなどからヒトに感染し、感染力は強いがヒトからヒトへの感染はない。北アメリカ、東ヨーロッパの一部、シベリアなど広範囲で発症がみられる。細菌は寒冷には耐性が強いが、高熱には弱い。10〜50個の細菌吸入で感染を引き起こし、曝露経路により人に数種類の病型を起こす。生物武器としてはエアロゾルとして散布される可能性があり、肺炎やチフス症状を引き起こす。

臨床状況

潜伏期は3日(2〜10日)であり、侵入経路、菌株により多彩な臨床症状を示し、典型的な症状は発熱、胸部不快感、空咳である。リンパ節型(有痛性頚部リンパ節腫脹)、眼リンパ節型(結膜炎、眼瞼炎、眼球穿孔)、鼻リンパ節型(鼻粘膜にジフテリア様の偽膜形成)、扁桃リンパ節型、類チフス型(リンパ節腫脹を欠く、発熱のみ)に分類される。多くの場合、数週間の寒気や吐き気、頭痛、発熱がみられる。
無治療時には、症状は2〜4週間さらには数ヵ月続くこともある。胸部X線像では、両側の浸潤陰影像が特徴的である。血液培養より血清診断が有用である。患者の診断を下した医師は、7日以内に最寄りの保健所に届ける。

治療

ストレプトマイシン(1g筋注、12時間毎、解熱後も10〜14日投与)、ゲンタマイシン(3〜5mg/kg/day筋注か静注、解熱後も10〜14日投与)が有効である。ドキシサイクリン200mg/日(静注)またはシプロキサシン800mg/日(静注)も効果がある。曝露後の予防投与として、ドキシサイクリン200mg/日かシプロフロキサシリン1g/日の14日間経口投与する。<生ワクチンRV 株>が旧ソ連邦で使用され効果を上げたが、無治療時の致死率は30%とされている。患者隔離は通常必要ないが、感染源動物を速やかに特定し焼却する必要がある。汚染された床や壁はエタノールかフェノールを十分噴霧し、汚染器具はオートクレーブか煮沸消毒する。次亜塩素酸塩は殺菌効果がある。