自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之
コレラ菌による激しい下痢は、抗O1抗血清に凝集する菌のVibrio cholerae O1によって引き起こされる。ヒトへの感染は、汚染された水/食品や便からの経口感染である。コレラ菌は、乾燥, 熱, 塩素消毒に弱いが、水中では数日生存する。1992年にベンガル型O139コレラは、新型コレラとしてインド全土だけでなく世界的流行の兆しをみせ、現在でも対応が必要である。生物テロ攻撃は経口で行われるので、良好な環境衛生状態の保持が重要である。
12〜17時間の潜伏期の後、突然の腹痛、嘔吐、悪寒とともに、主症状は下痢である。重症時には米のとぎ汁様の激しい水様性下痢と脱水症を呈する。下痢によって1日に5〜10Lの脱水を起こし、循環血液量減少性ショックに陥いて、死にいたることもある。未治療の患者の50%は死亡するが、適切な治療をすれば救命は容易である。
直接死因は下痢と嘔吐による脱水症であり、治療はWHO経口補水液 ORS(水 1リットル、NaCl 3.5g、NaHCO3 2.5g、KCl 1.5g、ブドウ糖 20g)で可能であるが、経口摂取できない時や重症例では経静脈補液を行う。ジュースやゲイタレードのようなスポーツドリンクでも代用できる。小児は、大人に比べコレラの脱水に弱い。抗菌薬は病期を短縮し、テトラサイクリン500mgまたはドキシサイクリン100mg経口投与が有効である。耐性株にはシプロフロキサシン500mgかエリスロマイシン500mgが必要である。小児はテトラサイクリン50mg/kg/day、エリスロマイシン40mg/kg/day、トリメトプリム−サルファメトキサゾール(ST合剤)40mg/kg/dayを3日間経口投与する。
ワクチンはあるが約半数の人にしか有効でなく、半年に1回の追加投与が必要である。食物の適切な保管、水の塩素消毒、手洗いの励行が、コレラ蔓延予防に有効である。感染者の便には注意を払い、患者に触ったものは十分に手洗いをする。次亜塩素酸塩は、コレラ菌の殺菌に非常に有効である。