自衛隊中央病院 箱崎 幸也・越智 文雄・宇都宮 勝之
ウイルス性出血熱(Viral Hemorrhagic Fever)、ヒトからヒトへ空気感染, 飛沫感染, 接触感染(発疹や水疱の滲出液)を起こす。
通常は、数日から1週間。
初期には、発熱、悪寒、結膜炎、皮膚の点状出血がみられる。重症化では、中枢神経系障害を伴い広範な点状出血、低血圧、ショックを起こす。
ウイルス遺伝子検出、血中抗体価(ELISA)、Vero 細胞でウイルス分離。
各ウイルスにより異なる。
一般的には5〜20%であるが、エボラでは感染者の50〜90%が死亡。
輸液などの支持療法のみで、特異的な効能を示す薬剤はない。
ウイルス性出血熱には、エボラ出血熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、アルゼンチン出血熱、ハンターウイルス出血熱、リフトバレー熱、黄熱、デング熱があり、類似症状を呈する。特に、エボラ出血熱、マールブルグ病は致死的(※17)であり、サハラ以南の東アフリカや西アフリカにみられる。
ウイルス保有動物は未だ不明であるが、人を含む霊長類に接触感染すると考えられている。アルゼンチン出血熱はげっ歯類の糞から広がり、黄熱とデング熱は蚊から感染が拡大する。
デング熱以外のウイルス性出血熱は、エアロゾルや感染物質への直接接触から感染すると考えられ、そのため生物兵器や生物テロとしての可能性がある。しかし現時点まで、生物兵器化として使用の事実はない。
ウイルス性出血熱の潜伏期はまちまちであるが、通常数日から1週間である。
初期症状としては発熱、悪寒、結膜炎、皮膚の点状出血がある。数日後に状態は急激に悪化し、咽頭炎、激しい嘔気/嘔吐、吐血、下血を呈する。出血は、口腔、歯肉、吐血、皮膚、粘膜、鼻腔、消化管に認められる。重症化では、中枢神経系障害を伴いより易出血性で点状出血がより広範囲となり、低血圧、ショックを起こす。
死亡率は5〜20%であるが、エボラ出血熱は感染者の50〜90%が死亡する。ウイルス検出は、PCR検査、血中抗体価(ELISA)、Vero 細胞でのウイルス分離などが有用である。
特異的な治療法はなく、対症療法としてはショック対策、脳浮腫対策、腎機能の保持、血液凝固能の維持、細菌による二次感染予防、酸素/血圧の維持に努めなければならない。過剰な水分補給は、脆弱な毛細血管のために肺水腫を起こすので避けるべきである。抗生物質は無効であるが、抗ウイルス剤リバビリンはいくつかのウイルス性出血熱の治療に可能性がある。
黄熱ワクチンは存在するが、その他は開発中である。患者を隔離するとともに、治療に当たってはマスク、ガウン、手袋などでの標準予防策が必要である。感染者の血液からは高濃度のウイルスが検出されるので、検体の扱いには特に注意を払う必要がある。次亜塩素酸塩は、出血性ウイルス熱ウイルスの静菌効果がある。
ウイルス性出血熱の要点
マールブルグ病 | エボラ出血熱 | クリミア・コンゴ出血熱 | |
最近の動向 | 1967年、ドイツ/マールブルグを中心に発症 | 1976年、スーダン南部ヌザラ、ザイール北部ヤンブクで発症 | 1944年、中央アジア/クリミア地方で流行。東ヨーロッパ、中近東等でも報告。 |
病原体 | フィロウィルス | フィロウィルス | ブニヤウィルス |
感染経路 | アフリカミドリザルが介在動物であるが、ウィルス保有動物は不明 | ウィルス保有動物は不明、従来の流行は院内感染が拡大の要因 | ウィルス保有動物はダニであり、感染ダニの咬傷や潰した傷口から侵入 |
潜伏期 | 3〜9日 | 2〜21日 | 3〜6日 |
臨床症状 | 頭痛、発熱後に、発疹、皮下出血さらに口腔、歯肉、吐血、皮膚、粘膜、鼻腔、消化管にも出血出現。 髄膜刺激症状、精神不安、ショックで死亡。 |
急激に発症、発熱、頭痛、結膜炎、筋肉痛後に、急激に悪化し吐血、下血。 丘疹〜紅斑様の発疹、粘膜(下)出血、第6〜9病日後にショックで死亡。 |
点状出血から血種まで、特に口腔、鼻腔、消化管、上半身皮下と広範囲に出現する。 |
診断 | アフリカへの渡航歴。
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アフリカへの渡航歴。
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流行地への渡航歴。
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治療 | 特異的治療法なし | 特異的治療法なし | リバビリンが有効? |
備考 | ウイルス出血熱では、患者を隔離するとともに、治療に際しては使い捨てゴム手袋や前掛け・ゴーグルなどを使用したバリアー・ナーシングの励行や、患者の排泄物の廃棄処分も重要である。 エボラ出血熱では、人から人へ感染すると死亡率の低下傾向が認められている。 |